静岡新聞社説=県地方総合戦略案-もっと危機感が必要だ

2015年07月01日

「まち・ひと・しごと創生法」による政府の「長期ビジョン」「総合戦略」に呼応して、静岡県も「地方人口ビジョン」と「地方版総合戦略」を策定し、人口減少克服と地域経済活性化を目指す。いずれも30日までに素案が県議会に示された。
 地方人口ビジョンは2060年時点の県人口を300万人程度と想定した。6月現在は約368万人。専門機関の推計で60年には238万人に減ると見通されるが、「オール静岡の取り組みで未来を変える」と威勢がいい。
 地方版総合戦略の素案は「命を守り、日本一安全・安心な県土を築く」ことを柱にし、その下に雇用創出、移住・定住の促進、子育て支援の充実、地域社会活性化などを置く構成になった。雇用も転入も、結婚・出産・子育ても、強くしなやかな県土あればこそという。ただ、これで「60年に300万人」を実現するには、相当緻密で高度な独自性ある政策が求められそうだ。
 今回、素案が示された「美しい“ふじのくに”まち・ひと・しごと創生総合戦略」を概観すれば、これまで進めてきた「内陸のフロンティア」(新東名高速道を中心とした内陸部の発展、沿岸部の再整備、蓄積した防災対策の強化)の取り組みに、地方創生の政府オーダーをミックスさせたようなもので、目新しさはない。何より、防災と地域経済戦略をどう関連させると地方創生の解が得られるのかが分からない。
 素案はこの後、県議会定例会常任委員会で審査されるほか、県内各界代表でつくる推進組織の「県民会議」、県内5圏域に設置した「地
域会議」で肉付けしていく。それぞれの会議で十分に練ってほしい。
 鍵を握るのは危機感だ。民間研究機関の日本創成会議が昨年5月、「国内の市区町村の約半数は40年までに消滅の危機がある」という試算を公表した後、安倍晋三首相が「地方創生」を言い出し、11月に地方創生法が成立した。
 静岡県も道府県別の人口移動報告で全国ワースト2位の転出超過となるなど、危機感を起点に動いている。その危機感の程度が問題なのである。
 先頃、講演で静岡市を訪れた石破茂地方創生担当相は静岡新聞のインタビューに、「危機感が強いところほどいい地方創生事例が出てくる」と指摘した。地方創生は、新たな地域間競争にほかならない。危機感の大小で成果に差がつく。静岡県は地域総合戦略を策定するに当たり、どの程度の危機感をもっているのか。現状で「60年に300万人」はスローガンにすぎないと言わざるをえない。