県産業成長戦略 「次世代対応」官民が模索

2015年11月24日

県は本年度、「県版産業成長戦略」に基づき、次世代産業創出などの県内経済再生策を進めている。約8カ月で複数の分野の推進組織が発足し、戦略の方向性は示されつつあるが、製品や事業としての具体的な成果は出ていない。新産業育成は難題だが、時間的猶予はなく、スピード感のある施策展開が必要だ。

 県は昨年度末に経済界と策定した同戦略で、従来の輸送機器、電機中心の産業形態を、健康医療、光、次世代自動車、航空宇宙などの多極型に転換することを目指す。グローバル市場で競争できる地域企業の育成を掲げ、中小だけでなく、従業員数百人規模の中堅企業を重点支援する。
 県は4月、大企業経営者らによる「目利き委員会(アドバイザリー・ボード)」を立ち上げ、月1回、新事業展開を目指す中堅企業の指導を続ける。中小企業の経営高度化人材を養成するスクールを開設するなど、人材育成策も強化した。
 新産業育成に向けては、先端7分野の技術研究で産業技術総合研究所と提携。植物繊維を微細化した新素材「セルロースナノファイバー(CNF)」、IT(情報技術)を活用した次世代技術「IoT(インターネット・オブ・シングス)」の官民の研究組織を相次いで発足させるなど、着々と手を打っているように見える。
 しかし、目利き委員会が対応できる企業数は限られ、CNFやIoT導入の研究も始まったばかり。県内企業の大多数を占める製造業の経営者が、戦略の進展を実感しているとは言いがたい。これから冬にかけて、県の来年度の予算策定作業が本格化するが、中堅・中小の経営者に対し、新事業進出を促す具体的な追加策を打ち出していく必要がある。
 戦略を推進する「県産業成長戦略会議」の役割も一層重要になる。主要経済団体トップと県幹部がそろう同会議は、県の産業政策を左右する存在と言える。より産業界の実態に即した対策を織り込んでいくために、ベンチャー企業の経営者や先端技術の研究者など、新たな視点を提示するメンバーを会議に加えてはどうだろうか。
 大企業の生産拠点の海外移転が進み、国内の中堅・中小企業は新興国との厳しい競争にさらされている。しかも本県経済は全国に比べ、回復が遅い。ものづくり産業の高度化に特効薬はない。結果にこだわり、一つでも多くの成功事例を積み重ねるしかない。
 (経済部・高松勝)